2020年10月29日の夜、韓国・ソウルの有名な繁華街である梨泰院で、ハロウィンのイベントに集まった群衆の一部が将棋倒しとなり、外国籍の26名を含む158人が圧死して犠牲となり、200人以上の負傷者も出す大きな事故が発生しました。
「ソウル梨泰院雑踏事故」などと称されている大韓民国の首都で起こった圧死事故がなぜ起きてしまったのか、なぜ多くの犠牲者を出すことになったのかを、一警備員としての目線で詳しく分析致します。
梨泰院雑踏事故の概要
事故が発生した梨泰院は、韓国ドラマ「梨泰院クラス」のロケ地でもあり、日本のドラマの原作にもなったように海外の人にも多く知られる人気ドラマであるため、海外からの観光客も多いクラブやバーが乱立する首都の繁華街です。
ドラマにも出てくるようにハロウィンのイベントに集まる人が非常に多く、事故の当日も約10万人の人たちが周囲にいたといわれています。
韓国では3年ぶりにコロナウイルスによる規制が解かれ、いままで溜まったストレスをいっきに爆発させようと、翌々日にハロウィン人たちが集まって膨れ上がり、コロナ前の2倍以上の人々繁華街に立ち並ぶ店舗でパーティーを楽しんでいました。
パーティーも一段落して2次会に向かう人や、盛り上がった人たちがごった返し、首都の繁華街とはいえ、10万にも集まってしまっては動きのとれない状況におちいっていきました。
事故が起きた場所は、日本の原宿にある竹下通りのような場所で、幅3.5mと狭い場所の下り坂になった上方で起きたと報告されています。何が原因だったのかは専門家も調べているところですが、大群衆が狭い路地に密集して入ったことと、路地が下り坂であったことが大きな要因ではなかったかと推測されています。
原因が何かはともあれ、警察や警備会社がなぜこのような状態を放っておいたのか、警備態勢はきちんと敷かれていたのかが疑問になり、事故後も救助活動が遅れて犠牲者が増えたことにも多くの非難が寄せられています。
警察の責任
現在も当時の地元警察、消防および自治体のトップの責任が問われているように、韓国当局も警察による警備体制に問題があったことを認めています。警察は大きなミスを2つ犯しています。
警察の犯したミス・その1
1つは当時、首都のあちこちでデモが誘発されており、デモ鎮圧のために4000人規模の大部隊を派遣し、危険が迫る梨泰院には、たったの130人しか警備員を配置しなかったことにあります。
前年も8万人以上の人手があり、800人の警備態勢をしていたそうで、この時には事故は起きていません。2017年のハロウィンイベントでは20万人もの人が訪れていますが、通行規制などをして人の流れを誘導し事故が起きないように配慮しました。
国家の安寧を願いデモに備えることも大切ですが、必要な人員を配置しないと精鋭部隊であっても小人数ではできる範囲に限りがあります。
狭い路地などでは人を流し込んでしまうと統制がとれなくなるため、連絡を取り合って入場調整などを行うことで安全に人が通れるように統制するはずです。
しかし、それができなかった理由は警備の人員が圧倒的に不足していたことと断定できます。単純計算で130人では一人あたり1000人を誘導することになり、警備員にも大きな負荷がかかり手を付けられない状況であったことが誰にでも分かります。
警察の犯したミス・その2
警察のもう1つの大きなミスは、綿密な警備計画を立てていたにも関わらず、適切に警備員を配置しなかったことです。前述の内容と相反することになるのではと思う方もいらっしゃるでしょうが、これはデモなどとは関係のない警備に関する問題にあります。
本来の韓国警察に立場とすれば、正しい警備態勢がとられているかをチェックする場所が警察であり、警備態勢を整えるのはイベントなどの主催者の義務になるのが通例でした。
警察では事前に10万人規模の人数が繁華街周辺に集まることを知っており、非常に危険だということも認識していたのに主催者に指導をしなかったのはなぜでしょうか。
実は警察も事前に警備計画を立てていたのですが、ハロウィンというイベントには主催者はなく、事故当日は前述のように各店舗で小さなパーティーがいくつも開催されている状況でした。
警察側としては、警備計画を指示するにも主催者といえる母体がなかったために警備態勢をとらず放置してしまったのことが2つ目の大きなミスになります。
政権交代などがあり、いままでのイベントの警備態勢とは異なったために起きた事故ではないかという人も多くいるようで、大統領の警護にあたる半分以下の警備員しか10万人の群衆に対して警護にあたらせないのは、国家自体にも責任があるといわれても否定はできないでしょう。
ただし、事件が起きたあとの救助や応対も非常に悪いものであり、きちんとした警備態勢を整えていれば、事故が起きたとしても犠牲者をもっと少なくできたと思うと非常に残念でなりません。やはり、警察の責任は重いと言わざるを得ません。
警備会社の責任
韓国にも日本と同じように警備会社があり、10万人以上の人が従事しているといわれます。もとは日本の警備を模倣して作られたといわれており、1950年ごろから発足したばかりで、あまり歴史の長い職業とはいえません。
今回の事故にあたった警備員に民間の警備会社が入っていたとは聞いておりません。報道では全て警察による警備ということになっていますので、もし事実ならばなぜ民間の警備員を投入しなかったのかは大きな疑問です。
警備会社とは警備を専門とする警備員を雇っている会社であり、警備の専門家です。とくに雑踏警備などは、このくらいの人数であれば配置はこのようにしてなどと警察に警備計画を立案できるでしょう。
イベントに主催者がいたならば、警備会社に依頼したのかもしれませんが、費用の負担や労力および時間の問題もあり、放置する結果になったと考えざるをえません。
警備会社は、依頼者から仕事を受けて警備計画を立てて実行する業務です。もし、梨泰院の配置された警備員が民間の警備会社だとしたら、非常に可愛そうに思えます。10万人を130人だけで警備して事故のないようにしなさいと依頼があったら引き受けるだろうかと考えたこともあります。
いままで800人で行ってきた警備を4分の1以下の130人という数字がどこから出てきて、どのような考えで計算されたのかをうかがってみたいものです。
警備会社の立場からすれば、繰り返しになりますが依頼者からの仕事を引き受けるわけですから、勝手に持ち場をかえることもできません。
もしかしたら、デモの警備に駆り出された警備会社があるかもしれません。その人たちが梨泰院の危険な状況や事故の報告を聞いたとしても、職場放棄してデモの警備から勝手に梨泰院に向かうことはできないのです。
警備員には責任がないと断言できます。警察の警備員の方々も上層部の警備計画を全うしたに過ぎず、最後まで大きな事件にしないように、地元警察のみで処理しようとした警察や自治体の責任は非常に重いと誰もが思うのは当然のことです。
犯人探しよりも先のことを考えよう
梨泰院の雑踏事故のあとに群衆雪崩がなぜおきたのかが問題になり、誰かが押したとか踊っている人が転んだということで犯人探しが始まったそうです。
しかし専門家にいわせれば、群衆雪崩とはそんな簡単なことで起きるものではなく、狭い路地に多くの人が殺到し坂道で大勢の体重が前方にかかることなどが原因であり、個々の責任は重大ではないといっています。
それよりも、大勢の人を狭い路地に統制もせず、もしくは統制できずに入れてしまったことに大きな問題があり、それは警備体制が不十分だったことが原因の1つであったことは明らかです。日本でも同じようなことが起きており、ボランティアで警備をしていた人たちが責められているシーンを見たことがあります。
警備とは簡単なことではなく、事故が起きれば全てが警備員のせいにされ非難を直接受けます。警備業は何もないことを評価されるものであり、何かあったときに批判される割に合わない職業だといえますが、縁の下の力持ちであることは間違いない事実です。
みなさんの安全を守るために身体をはって警備のボランティアに参加された方々もいろいろと非難をうけましたが、見えない場所で必ず役に立っています。傍観者および報道関係者は一部だけを見たり聞いたりして非難するのではなく、感謝さえしなくてはいけません。
警備体制強化で人命最優先主義が大切
今回の事故は警備員を束ねる警備会社や、その上で指揮する警察および自治体に大きな問題を投げかけました。警備は人命を守るために絶対に必要なものであり、手薄になって事故がおきたときに、その重要さが分かるものです。
安易に経費削減の目的として警備を少なくするようなことはせず、今後は人命第一で安全な場所と空間を提供していただけるよう切に願っています。
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