警備員は、施設の警備で夜勤をおこなうことがあるほか、年度末の道路工事が増えるときには交通誘導警備が多くなります。
警備員は、夜勤が多いほど労働時間が長くなりやすく、警備の需要が増えるほど出勤日数は多くなりがちですが、そのような場合に「変形労働時間制」が採用されることがあります。
変形労働時間制が導入された場合、どのような働き方をするのか、また、変形労働時間制の場合、残業代はどうなるのか、という点について説明します。
変形労働時間制とは
変形労働時間制とは、労働時間を週単位、月単位、年単位のように、一定の期間内で調整できる制度です。
労働時間は法律によって1日8時間以内、1週間あたり40時間以内と定められています。それを超えて労働した場合は残業代を支給しなければなりません。
変形労働時間制を導入した場合、原則として一定期間内の労働時間の平均が1日8時間を超えないようにします。具体的には、多忙な時期の労働時間を長くした場合、さほど忙しくない時期の労働時間は短めにします。
上記のような働き方であれば、一定期間内における1日あたりの労働時間は、法律で定められた範囲内に収められます。
変形労働時間制で残業代は発生する?
変形労働時間制では、1日の労働時間が8時間を超えても、原則として残業代は発生しません。
なぜなら、変形労働時間制の場合、ある日の労働時間が1日8時間を超えたとしても、別の日の労働時間を1日8時間以内に抑えることにより、一定期間内における1日の労働時間の平均は8時間を超えないためです。
ただし、一定期間内における1日の労働時間の平均が8時間を超えた場合は残業代が発生します。
月単位・年単位の変形労働時間制
変形労働時間制の区分は、週単位、月単位、年単位があります。
ただし、1週間単位の非定型的変形労働時間制が認められるのは、企業としての規模が30人未満の小売業、旅館、料理・飲食店に限られており、警備業は対象外です。
ここでは、1週間単位の変形労働制については省略します。
1か月単位の変形労働時間制
1か月間の日数はその月によって異なります。そのため、変形労働時間制を1か月単位でおこなう場合、その月によって1か月あたりの労働時間は変わります。
くわしい内容は下記の通りです。
|1か月の日数|1か月の労働時間の上限|h
|28日|160.0時間|
|29日|165.7時間|
|30日|171.4時間|
|31日|177.1時間|出典:厚生労働省 1か月単位の変形労働時間制
https://www.mhlw.go.jp/
1年単位の変形労働時間制
変形労働時間制を1年単位でおこなう場合、1年間の労働時間の上限は下記の通りです、
なお、うるう年の場合は、通常の年より1日多い分、1年の労働時間の上限は長くなります。
|1年の日数|1年の労働時間の上限|h
|365日|2085.7時間|
|366日|2091.4時間|出典:厚生労働省 1ヵ月又は1年単位の変形労働時間制
https://www.mhlw.go.jp/
変形労働時間制のメリット
変形労働時間制のメリットは、雇用者側からみると業務内容に応じた労働時間に変更できる点です。
しかも、変形労働時間制によって1日あたりの労働時間が8時間を超えた場合は、先述した通り、原則として残業代を支給する必要がありません。
そのため、雇用者側としては、多忙な時期に通常よりも労働時間を長くしても、閑散期の労働時間を少なくすることによって、残業代を抑えられる点はメリットといえます。
また、労働者側のメリットとしては、閑散期になると短時間労働で済む場合があるため、働きやすいと感じられる点です。
変形労働時間制の警備員の働き方
警備員は、下記のような働き方をする場合に変形労働時間労働制が採用されます。
・24時間勤務
・特定の時期に警備の需要が増える場合
それぞれの事例について説明します。
24時間勤務
警備の業務で24時間勤務となるケースとしては、施設の警備において、勤務時間と休憩時間の合計が24時間になる働き方があげられます。
24時間勤務では、休憩時間、食事の時間、仮眠時間を合わせると8時間程度になり、実際の労働時間は約16時間です。つまり、24時間勤務をすると、1日8時間の労働を2回まとめておこなうことになります。
なお、24時間勤務の場合は勤務の終了から次の勤務までの期間が長めになることが多いです。
例をあげると、24時間勤務が終わったその日は非番となるため、勤務が終わった後は実質的に休みとなります。また、非番の次の日は休みになることが多いです。
つまり、24時間勤務が終わった後、次に出勤するのは主に翌々日となります。
24時間勤務の場合は、1か月単位の変形労働時間制が採用されていることが多く、1日あたりの労働時間は8時間、1週間あたりでは40時間以内に収まります。
そのため、24時間勤務の場合、1日の労働時間が8時間を超えても原則として残業代は支払われません。ただし、24時間勤務の日に実質的な労働時間が16時間を超えた場合は、残業代が支払われます。
特定の時期に警備の需要が増える場合
警備業では、特定の時期に警備の需要が増えることがあります。
このようなケースでは、1年間の変形労働時間制で対応します。
例として、商業施設の警備と工事現場の交通誘導警備をあげます。
商業施設の警備
年末年始になると、商業施設は12月31日まで営業して、年始は早ければ1月1日から営業を始めます。
そのため、商業施設の警備は年末は12月31日まで、年始は早ければ1月1日から警備をしなければならないこともあります。
なお、商業施設は2月は閑散期になることが多いです。年末年始の警備の日数が増えた分、2月に警備をする人員を少なめにして、警備員の休みを確保することもできます。
道路工事現場の交通誘導警備
道路工事は、自治体が年度内の予算を消化するために、年末から3月頃にかけて増えやすくなります。それとともに交通誘導警備の需要も高まるため、この時期は警備をおこなう日が増えます。
一方で、4月から6月頃にかけては、3月までにおこなわれた工事が一段落し、閑散期となります。
そのため、年末から3月頃までは出勤日が多くなりやすい反面、4月から6月頃の出勤日を少なくしやすいため、年間を通してみると定められた労働時間の範囲内に収められます。
変形労働時間制が多い現場とは
変形労働時間制が多い現場としては、施設警備と交通誘導警備があげられます。
施設警備は日中のみならず夜間の警備もおこなう必要があるため、警備会社によっては変形労働時間制を導入し、24時間勤務で対応することがあります。
また、交通誘導警備は、時期によって警備をする機会が増えるため、閑散期に出勤日を少なくして、年間で労働時間を調整します。
まとめ
警備員の変形労働時間制とは、月単位や週単位など、一定の期間内で労働時間を調整できる制度です。
変形労働時間制は、多忙な時期とさほど忙しくない時期が明確に分かれている業種ほど利用しやすい制度といえます。そのような業種ほど、一定期間内の労働時間を平均した場合、1日8時間以内に収められます。
なお、変形労働時間制で1日の労働時間が8時間を超えた場合であっても、一定期間内における1日あたりの労働時間は平均で8時間以内となるため、原則として残業代は支給されません。
警備業においては、施設警備で24時間勤務をおこなう場合や、道路工事の交通誘導警備など、特定の時期に警備の需要が増える場合に導入されています。
変形労働時間制は、警備員にとっては長時間労働となりやすい時期がある反面、短時間労働で済む時期もあるため、見方によっては働きやすい制度といえるでしょう。
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