はじめに
警備員の仕事だけでなく、どんな仕事でも怪我は起こるものです。場合によっては死亡事故につながることもあります。
そんな怪我や死亡に対して、警備会社や契約先の現場では、労働者災害補償保険という略して労災に加入しています。どんな時に労災が使えるのか、ここで警備員がこれまで適用されてた実例を交えて、説明をしていきます。
労災とは
労災とは、労務によって被った怪我や病気のほか、死亡に対しても、国が補償する保険制度です。しかし怪我をしたからと言って、全ての怪我に適用されるとは限りません。
通常では、業務上の災害または通勤途中の災害であれば労災に認定となるのですが、その状況によっては、労災に認定されない場合があります。具体的な例をいくつか見ていきましょう。
例1 安全策の中で交通誘導を行って事故に遭う(○)。安全策の外で交通誘導を行って事故に遭う(×)。
安全に警備を行えるように警備の契約先や警備会社は、事故防止の目的で、安全管理基準や保安用具をそろえています。それにも関わらず、安全基準等を無視して事故に遭うことは、労災には認定されません。
その他に工事現場内でヘルメットを被らないことや、夜間の道路工事で誘導灯を使わないことによって、怪我をしても、労災は認定されません。必ず自分の身を守るための安全用具は、常に正しく身につけましょう。
例2 食堂の無い施設で、休憩中昼食を買いに行く途中、怪我をする(○)。仕事中勝手に抜け出して怪我をする(×)。
休憩時間と言えども、業務上の災害となり、労災に該当します。施設に食堂があれば、昼食を買いに行かずに、怪我をすることが免れたと考えられており、食堂が完備していないことで、現場の責任として労災が認定されます。
但し業務中であっても、個人的な用事や、管理者の許可無く勝手に抜け出した場合は、たとえ怪我をしても、一切労災とはならないので、注意が必要です。
例3 通勤途中に警備会社に寄ってから、警備の現場に向かう途中に事故に遭う(○)。通勤帰りに、通勤経路から離れた友人の家に遊びに行く途中に事故に遭う(×)。
通勤途中の災害は、基本的には自宅と現場の間に、通常考えられる経路を通って事故に遭う場合は、労災認定となります。
明らかに友人の家に行くことは、個人的な用事となり、認定とはなりませんが、通勤途中に保育園に子供を送迎することや、昼食を買いにコンビニに寄ることは、労災の対象と認められています。
これら以外にも、台風や洪水、地震などの自然災害による怪我に対しても、適用はされません。
以上のことから、たとえ業務上であっても、現場の管理者が安全な策を講じていなかったり、警備員自身が安全対策を怠っていたり、個人的な用事をしている場合など、労災認定とはならないということです。
警備員の業務中に怪我をしたらどうなる
労災によって給付される補償には、様々な種類があり、主なものは下記の通りです。
・療養補償給付
警備の業務中に怪我をすることや、病気になった場合、診察費、薬代、松葉杖などの支給や、処置や手術、治療などで居宅における看護、病院などへの入院・看護などの療養の給付が受けられます。
・休業補償給付
怪我や病気に罹るなど場合によっては、何日も休まなければならない時があります。その分の補償も考えられており、療養中の休業4日目から給付基礎日額の80%が支給される制度です。
・障害補償給付
このケースも怪我の程度によっては、後遺症がもたらされる場合があります。そんな時は一定額の年金または一時金が支給される制度です。
・遺族補償給付
このケースは、警備員本人が労災により亡くなってしまう場合に適用され、受取人は遺族となり、遺族補償年金として支給される制度です。
以上のように怪我や病気になることから、休業、障害、死亡まで様々な給付が用意されています。また更には葬祭給付と言う葬儀代まで支給する制度があるので、知っておいて損はありません。
労災の手続きは、病院の診断書の準備や、事故の発生状況を記述することなど、慣れていなければ大変ですが、申請が通れば給付金が支給されます。
労災が適用された事例
警備員が業務中に起こる怪我や死亡原因は、どういうことが考えられるのでしょうか?
労働基準局安全衛生部安全課による令和3年の業種別死傷災害発生状況によれば、全産業で労災適用になった方149,918名の内、警備業は2,059名となっています。
他の業種と比べても、警備業は比較的少ない数字です。警備業に関する事故の原因を、多い順番に並べたものが、下記の内容です。
1位 転倒 805名
2位 交通事故(道路)282名
3位 動作の反動・無理な動作 240名
4位 墜落・転落 224名
厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/
まずは1位の転倒ですが、施設警備や交通誘導警備に多い事例となります。夜間に施設内を移動する時に、足下にある段差に気づかないことや、工事現場では床面に置いてある資材でつまずくことなど、業務上危険な箇所を通行することがあるため、転倒が最も多い事故であると言えます。
2位の道路での交通事故は、交通誘導警備や貴重品運搬警備が最も関係しています。但し、貴重品運搬警備は、貴重品を運ぶために、常に慎重に車を運転していることから、どちらかと言えば、怪我をするリスクが高いのは、交通誘導警備の方になります。
工事車両や一般車両を誘導することが主な業務であり、警備員自身が気をつけていても、相手の車両が気をつけていなければ、どうしようもありません。
常に接触事故と隣り合わせとなっており、死亡事故も年に数件発生していることから、安全第一の合い言葉の通り、とにかく気をつけて警備に当たることが大切です。
3位の動作の反動・無理な動作は、重いものを持ち上げたために、ぎっくり腰になる事故となることが多いようです。また4位の墜落・転落は、施設警備や建物工事現場での、階段の踏み外しによる転落が考えられます。
ここまで労災となる事例を紹介しましたが、他の業種では発生しているのに、警備員には無縁の事故と言うのが、いくつかあります。例えば感電や家事、爆発と言った内容の事故は0件で、危険な箇所からは、離れて仕事をしていることが分かります。
事故を防止するためには
事故を防止するためには、警備員自身が事故に遭わないよう心がけることが重要です。それでも事故は、いつどこで起こるのか分かりません。事故に遭わないためにも、常にどこに危険があるのかを察知しておくことが必要です。
もし仮に、工事現場や施設内で危険な箇所があれば、工事の管理者に改善してもらえるよう、警備報告書等で文書として伝えることも1つの方法です。
一度、工事現場内で労災に該当する事故が発生すれば、工事がストップすることも考えられます。そのためにも、工事の管理者は、工事業者が怪我をしないよう、手段を講じる義務があります。
このように1つ1つ危険な箇所を減らしていくことが出来れば、怪我をするリスクが、少しでも減ることにつながります。
まとめ
これまで労災について説明してきました。業務上に起こった事故について労災が適用されていますが、中には個人的な用事や、工事の管理者が安全を講じないなど、ケースによっては労災が適用されないことがあります。労災が適用されなければ、警備員自身が負担する可能性が出てきます。
そうならないためにも、業務中は警備員としてまじめに従事すること、また安全を心がけて業務を行うことが大切です。
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