工事現場での交通誘導警備は原則として警備員が行いますが、場合によっては、工事を行う建設会社の社員が交通誘導警備を行う「自家警備」という形をとることがあります。
なぜ、警備の知識や経験が豊富な警備員が交通誘導警備を行わず、警備の知識が少ない建設会社の社員が自家警備を行うのでしょうか。また、自家警備を導入するために必要な要件や、自家警備を導入した場合のメリットについてもみていきます。
自家警備とは
自家警備とは、工事現場で交通誘導が必要な場合に警備会社に依頼せず、自社の従業員が交通誘導警備を行うことを指します。
本来、工事現場での交通誘導警備は警備会社に所属する警備員が行います。
しかし、警備員は人手不足の状況が続いており、建設会社の要望通りに交通誘導を行う警備員を手配できない場合があります。
それに加え、交通誘導警備は工事現場以外にも、豪雨災害によって道路が通行できない場所や、土砂崩れが起きた道路で片側の交互通行を行わなければならない場所でも必要となります。
工事現場に交通誘導警備の警備員が不足していることへの対策として、総務省と国土交通省は2017年6月に「交通誘導員の円滑な確保について」という通達を出しました。
「交通誘導員の円滑な確保について」の概要
「交通誘導員の円滑な確保について」の通達においては、被災地など、多くの交通誘導員が必要な地域において、工事現場に交通誘導の警備員を配置できない場合は、建設会社の社員による自家警備を認めています。
自家警備は、警備員が行う警備業務とは異なり、警備業法における警備には当てはまりません。そのため、自家警備の場合は警備会社に所属する警備員ではなく、建設会社の従業員が交通誘導警備を行えます。
しかし、警備の資格を持っていない人が交通誘導警備を行うと、交通事故などのトラブルが発生する原因になりかねません。
その対策として、総務省と国土交通省は2017年9月に「交通誘導員の円滑な確保について(補足)」という通達を出しました。
その通達においては、自家警備を行えるのは、警備員が不足して交通誘導の警備員を手配できない場合に限ると定めています。また、交通誘導を行う場合には安全を十分に確保することも求めています。
なお、自家警備を認めるかどうかは、都道府県あるいは政令指定都市によって異なります。そのため、自治体によっては自家警備を行えない場合もあります。
ただし、自家警備を認めている自治体においても、自家警備を行う場合には一定の要件を満たさなければなりません。
次の項目では、自家警備を導入できる要件についてみていきます。
自家警備を導入できる要件とは
自家警備を行うことが認められているのは、工事現場の交通誘導に必要な人数の警備員を確保できなかった場合に限られます。
先述した通り、工事現場の交通誘導警備は警備員が行いますが、警備員の不足により、工事現場の交通誘導に必要な人数の警備員がなかなか手配できない場合があります。
そのような場合は、建設会社の社員が一定の要件を満たせば、交通誘導警備を行えます。
自家警備を行う人に求められる要件は?
自家警備を行う人に求められる要件は、自家警備を認めている自治体によって異なります。
要件の一例をあげると、下記のものがあげられます。
・交通誘導警備に関する講習を受講した人
・交通誘導警備業務検定の1級、または2級に合格した人
自治体によっては、自家警備を行う人に対して、交通誘導警備の講習を受講すること、あるいは、交通誘導警備業務検定に合格することを義務づけている場合があります。
これらの要件を満たしていれば、交通誘導に関する知識を身につけた状態で警備を行えるため、工事現場の交通誘導において円滑な交通の流れを保ちやすくなります。
自家警備はどんな道路でも行える?
自家警備は、国道のように交通量が多い道路では認められていません。
自家警備を行えない道路は、自治体が指定しています。
例えば「国道○○号線と国道□□号線では自家警備を認めない」と定めるケースや「交通量が1日1000台を超える道路では自家警備を認めない」と定めることもあります。
自家警備を行う警備員は、原則として交通誘導警備の講習を受けているため、講習で学んだ内容に基づいて交通誘導を行うことができます。しかし、交通量の多い道路ではうまく交通誘導ができない場合もあるでしょう。
なぜなら、警備に関する専門的な知識や経験が少ない人が交通量の多い道路で誘導警備を行うと、交通事故につながる可能性があるためです。そのほかにも、通行する車両の誘導が適切に行われなければ、渋滞が起きる原因にもつながってしまいます。
交通量の多い道路で交通誘導を行うためには高い知識やノウハウ、経験が求められるため、自家警備を行わず、警備員を配置して交通誘導警備を行います。
自家警備を導入するメリット
建設会社が自家警備を導入するメリットとしては、下記があげられます。
・警備員を手配する手間が省ける
・警備のコストを抑えられる
それぞれの内容について説明します。
警備員を手配する手間が省ける
自家警備を導入できれば、工事現場で交通誘導警備をするために警備員を手配せずに済みます。
日本では少子高齢化によって労働力人口の減少が続いており、多くの職種で人手不足となっていますが、それは警備の業界も同様です。
警備員が不足している状況では、工事現場に必要な警備員を確保することが難しくなります。そのため、警備員を手配するに当たって頭を悩ませている建設会社も多いことでしょう。
その点、自家警備を導入できれば自社の社員を交通誘導警備の業務にあてられるため、警備員を手配する手間が省けます。
自家警備なら、工事を行いたいタイミングで交通誘導警備ができる人をそろえられるため、スケジュール通りに工事を進められます。
警備のコストを抑えられる
そのほか、自家警備を行うメリットは、自社の従業員が警備を行うため、警備のコストを抑えられる点です。
警備員に交通誘導警備を依頼する場合は、警備会社に対して警備費用を支払わなければなりません。しかし、自家警備の場合は自社の社員が警備を行うため、警備会社に対して支払う警備費用を浮かせることができます。
ただし、自家警備を導入できるのは、交通誘導警備の警備員を手配しても必要な人数が集まらない場合に限られます。
また、自治体によっては自家警備を認めていない場合があるので、交通誘導警備にかかるコストを抑えたいという目的だけで自家警備を行わないようにしましょう。
まとめ
工事現場における自家警備とは、交通誘導警備を建設会社の社員が行うことです。そのため、自家警備の場合、警備員は警備を行いません。
本来、交通誘導警備は警備員の業務であるにもかかわらず、建設会社の社員によって自家警備が行われる理由は、警備員の不足によって交通誘導に必要な警備員を確保できない場合があるためです。
ただし、自家警備で交通誘導警備を行うためには、交通誘導をスムーズに行うために、交通誘導警備に関する講習を受けること、あるいは、交通誘導警備業務検定に合格する必要があります。
なお、自家警備は自治体によっては認めていない場合があるため、自家警備を行って良いかどうかを事前に確認しておきましょう。
自家警備を行う場合は、交通事故などのトラブル発生を防ぐためにも、講習で学んだ通りに交通誘導の業務を行うことが重要となります。
(画像は写真ACより)
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