はじめに
人の集まる場所では群集事故と呼ばれる事故が起きやすくなります。そのため警備員による雑踏警備によって人の流れをコントロールし、群集事故を未然に防がなければなりません。
過去には警備体制が不十分だったため、日本でも死傷者を出した事故があります。群集事故の原因や事例、対策などを解説しています。
群集事故とは
群集事故とは、人が過密状態になることで発生する事故です。雑踏事故とも呼ばれ、発生パターンとして将棋倒し(ドミノ倒し)や群集雪崩などがあります。コンサートやスポーツ観戦、お祭りなどの各種イベント時に起こりやすいです。
都市部での災害発生時にも、群集事故が発生するリスクがあります。災害は予期せぬものなので、警備員による雑踏警備も事前に準備ができません。パニック状態で逃げる人があふれた結果、二次災害として群集事故が起こる危険性は十分に考えられます。実際に1923年の関東大震災では群集事故の報告が多数ありました。
東京都では「帰宅困難者対策条例」を設け、大規模災害発生時にむやみに移動を開始しないよう呼びかけています。電車などの公共交通機関が止まった場合、徒歩による一斉帰宅により道路が過密状態になると大変危険です。救急車や消防車などの緊急車両も通行が妨げられます。
事業者は従業員が職場での待機を可能にするため、3日分の水や食料などを備蓄するよう要請しています。群集に巻き込まれると事故の防ぎようがなくなるので、むやみに移動せず待機するのが一番安全です。
家族等の安否を確認して、安心して職場や外出先に待機できるよう、あらかじめ複数の連絡手段を確保しておくことも勧められています。
群集事故は、国内外問わず数年に1度は大規模なものが発生し、多くの死傷者を出しています。主な死因は圧死です。過密状態で胸郭が圧迫され呼吸ができなくなり窒息死に至ります。外傷性窒息死とも言われます。
将棋倒しで上から押しつぶされるケースだけでなく、立った状態のままでも圧迫され呼吸ができなくなるケースもあります。体重の4倍の圧力がかかると、10分以内に亡くなる確率が75%。3倍の圧力でも1時間続くと亡くなるとされています。
群集事故が発生する原因
■将棋倒し(ドミノ倒し)の発生原因
将棋倒し(ドミノ倒し)は、群集事故のなかでもよく見られる現象です。群集密度が3~5人/㎡以上の過密状態で、まだ人の流れが少しでもある状態のときに発生します。その流れのなかで、つまずいて転倒したり、前の人を押し倒したりすると連鎖的に人が倒れていくメカニズムです。
■群集雪崩の発生原因
群集雪崩は、群集密度が10人/㎡以上の過密状態で、ほとんど人の流れがなく相互にもたれあっているときに発生します。
そのもたれあっている均衡状態のなかで、落としたものを拾おうとしゃがんだり、具合が悪くなってうずくまったりすると、そのぽっかり空いたスペースに全方向から人が倒れ込んでくるメカニズムです。
そのため群集雪崩は「陥没型倒れ込み」や「内部崩壊型倒れ込み」とも呼ばれます。倒れ込みは連鎖的に円形状または楕円形状に広がります。
■群集密度が高まる原因
将棋倒しも群集雪崩も根本原因は群集密度の高さにあります。群集密度が高くなる原因のひとつが「ボトルネック」です。
通路が狭くなったり、階段や段差、曲がり角があったりすると、そこで人の流れが滞ります。そこに後方の人が同じスピードで押し寄せてくると、群集密度が高まるメカニズムです。
群集同士が正面衝突して、双方向に押し寄せることでも群集密度は高まります。
群集事故の事例
■ソウル梨泰院雑踏事故
記憶に新しいのが2022年10月29日に韓国で起きた群集事故です。ソウルの繁華街・梨泰院(イテウォン)で、ハロウィンの仮装行列やパーティーなどで混雑するなか発生しました。日本人2人を含む158人が犠牲になっています。負傷者は196人(重傷31人、軽傷165人)です。
事故現場は幅3.2メートル、長さ40メートルの狭い坂道です。地下鉄の梨泰院駅と、にぎやかなメインストリートである世界飲食文化通りを結ぶ路地のため、群集が双方向から押し寄せていました。身動きが取れないほどの過密状態となり群集雪崩が起きたと見られています。
当時周辺には10万人以上が集まっていましたが、警備体制が不十分で警察官が130人ほどしか派遣されていなかったと報じられています。
■明石花火大会歩道橋事故
日本でも2001年7月21日に兵庫県明石市の「第32回明石市民夏まつり花火大会」で群集事故が発生しています。11人が犠牲となり、負傷者も183人出ています。
事故現場は、JR神戸線・朝霧駅南側の歩道橋です。駅と会場を結ぶ経路が歩道橋しかなく、群集が双方向から押し寄せたことで過密状態となり群集雪崩が起きました。群集密度は13~15人/㎡になっていたとされています。
歩道橋の狭さがボトルネックとなったほか、歩道橋がプラスチックの側壁で覆われる構造で蒸し風呂状態となり、心理的に焦りが生じたことも事故原因として挙げられています。
この事故は警備体制の不備も指摘されました。15~20万人の参加者が予想されていたにもかかわらず、雑踏警備要員は36人です。明石市と兵庫県警察本部、警備会社との間で警備計画の事前協議も十分になされておらず、警備計画書はコンサートなどのイベント用を流用するものでした。
2005年には警備業法と国家公安員会規則が改正され、群集事故対策として警備業務検定に「雑踏警備」が追加されています。
2010年には最高裁判所において、警察官を指揮する警察署地域官と、警備員を統括する警備会社支社長に、業務上過失致死傷罪の判決が出ています。雑踏警備における責任の重大さが示されました。
群集事故への対策
警備業務における対策としては雑踏警備体制を強化し、人の流れをコントロールすることが肝要です。ボトルネックとなるポイントでは入場制限などで小分けに誘導したり、迂回や蛇行させる動線を作ったりすることで、人の流れを緩やかにできます。
群集を衝突させないよう左側通行や一方通行を徹底させたり、一定の安全なペースで進んでもらうようアナウンスしたりするのも有効な手段です。
個人の危機管理としては、過密状態は危険であることを認識することが重要です。イベント会場などへ出かけるときは、なるべく混雑する時間帯や経路を避けたり、意識して前を歩く人との間隔を空けたりして対策します。安定した靴を履いて、つまずかないよう足元に注意することも大切です。
まとめ
群集事故とは人が過密状態になることで「将棋倒し(ドミノ倒し)」や「群集雪崩」が発生する事故です。国内外問わず数年に1回は大規模なものが起こり、多数の死傷者を出しています。
群集密度がある一定以上になったときに発生しやすいです。つまずいて転倒したり、前の人を押し倒したり、落としものを拾おうとしゃがんだりしたことがきっかけで、連鎖的に転倒が広がります。
最近では韓国・ソウルの梨泰院で、過去には日本でも兵庫県明石市の花火大会で群集事故が発生しました。両方とも狭い通路に群集が双方向に押し寄せることで群集雪崩が起きています。
警備体制が不十分だったことも指摘され、日本では責任者2名が、最高裁判所で業務上過失致死傷罪の判決を受けています。雑踏警備の責任は重大です。イベント会場などでは警備体制を強化し、人の流れをコントロールすることが肝要です。
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