はじめに
東京2020オリンピックは、新型コロナウイルスの影響で1年延期となりましたが、無事開催され成功をおさめました。
オリンピックの警備体制は、のべ数十万人の警備員が必要になるほど大規模化しています。なぜなら競技数や競技会場の増加だけでなく、国際テロ情勢も懸念されるためです。
慢性的に人手が不足している警備業界は、どのようにオリンピックの安全と安心を守ったのでしょうか。警備員の大活躍を解説します。
東京オリンピックに動員された警備員の数は?
■警備員の動員数について
2021年(令和3年)7月23日から8月8日の17日間にわたり開催された東京2020オリンピック。動員された警備員の数は、のべ19万9600人でした。1日あたりの平均は約1万2000人になります。7月30日がもっとも多く1万4000人でした。
その後の8月24日から9月5日の13日間にわたるパラリンピックでは、のべ10万8800人が警備にあたっています。1日あたりの平均は約8400人でした。
準備・撤収期間まですべてあわせると、1月5日から10月30日の300日間で、のべ53万5000人の警備員がオリンピック・パラリンピックのために動員されました。
■警備員の確保について
東京2020オリンピックは、新型コロナウイルスの影響で無観客開催となり、競技会場での観客に対する手荷物検査や交通誘導がなくなりました。そのため警備員の動員数は、のべ53万5000人におさまる結果となります。しかし本来はさらに6万6200人多い、のべ60万1200人の警備規模が試算されていました。
この規模の警備員は、警備会社1社では確保できません。そのため「警備JV」と呼ばれるジョイントベンチャー(日:共同企業体、英:Joint Venture)が設立されます。
正式名称は「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会警備共同企業体」。共同代表は、セコム株式会社(SECOM)と綜合警備保障株式会社(ALSOK)の2社です。
共同代表の2社と以下の12社、あわせて14社が理事会社となり発足しました。
・公安警備保障株式会社
・高栄警備保障株式会社
・株式会社シミズオクト
・ジャパンパトロール警備保障株式会社(JSP)
・昭和セキュリティー株式会社
・シンテイ警備株式会社
・株式会社セシム(SESIM)
・株式会社セノン(SENON)
・セントラル警備保障株式会社(CSP)
・株式会社全日警(ANS)
・第一総合警備保障株式会社(DSK)
・テイシン警備株式会社
東京2020オリンピックは、競技施設が集約されたオリンピックパークがありません。全42箇所の競技会場は東京だけではなく、北海道や宮城、福島、茨城、埼玉、千葉、神奈川、静岡の合計9都道県にまたがります。
そのため警備対象先が多く、多数の警備員が必要とされました。警備対象先は合計で510箇所にのぼります。オリンピックは350箇所、パラリンピックは160箇所です。
一般道路を使用するロード競技の多さも、多数の警備員を必要とする要因となりました。陸上競技(マラソン・競歩)・トライアスロン競技・自転車競技(ロード)でおのおの男女別、トライアスロン競技は混合リレーもあります。
最終的にこの警備JVには、47都道府県の553社が参画しました。人手不足や国際テロ情勢が懸念されるなか、警備業界が一丸となる「オールジャパン体制」でオリンピックの安全と安心を支えました。
■警備員不足について
東京2020オリンピックの前2大会では、警備員が不足する事態が発生しています。
2012年のロンドンオリンピックでは、世界最大規模の警備会社「G4S」が人材調達に失敗しました。当初の派遣計画は2000人でしたが、テロを警戒するために1万400人体制の警備が必要になったのが大きな原因です。
前もって人材を募集していなかったことも災いして十分な人材調達ができず、イギリス政府は直前になって3500人の軍人を動員せざるを得なくなりました。
2016年のリオデジャネイロオリンピックも同様の失敗です。テロを警戒し手荷物検査のために3400人の警備員が必要でした。しかし、人材派遣会社が依頼を受けたのは開催のわずか1ヶ月前です。人材調達できたのは500人ばかりで、こちらもブラジル政府が直前に警察OBを動員する事態となりました。
警備会社の破産にも見舞われ、全体では7000人の警備員が不足しているなかで開催されました。手荷物検査で何時間も待たされ、長蛇の列になるなどの問題が発生しています。
警備業界は慢性的に人手不足です。これら前2大会の失敗を教訓に、東京2020オリンピックでは警備員不足にならないよう、時間的に余裕をもって対策がとられました。大会2年前の2018年には警備JVを立ち上げ、オールジャパン体制を整えました。
そのオールジャパン体制をバックアップするために導入されたのが「eラーニング」です。警備員になるには「新任教育」と呼ばれる新人研修を、座学と実技で20時間以上受ける必要があります。
この新任教育の負担を減らせるよう、警備業法が改正されました。インターネットを介した「eラーニング」を許可することにより、教室の大きさやコロナ禍の人数制限に関係なく教育ができます。警備会社と警備員の負担がともに減り、採用業務が効率化されました。
東京オリンピックでの活動
オリンピック開催中の警備対象先は、競技会場や選手村、公共交通機関、ロード競技の一般道路など多岐にわたります。
業務内容は立哨警備や巡回警備、交通誘導、雑踏整理、手荷物検査などのセキュリティチェック、お客様対応、不審者対応、急病人・ケガ人救護など幅広いです。
人手不足を解消するために、効率的に警備ができるよう最新テクノロジーによる防犯機器やシステムも活用されました。
競技会場や選手村のセキュリティフェンスには、赤外線センサーと監視カメラが張り巡らされました。不審者を検知すると警備指揮所に映像が送られる監視システムです。一部の警備員はウェアラブルカメラを装備しているため、リアルタイムの巡回映像も警備指揮所に集められ問題に対処できます。
大会関係者のセキュリティチェックでは、人工知能(AI)の画像認識による顔認証システムが導入されました。身分証と実際の顔を照らし合わせる従来の警備にくらべ、時間と労力が大幅に削減されています。
日本の警備業界は、1964年の東京オリンピックをきっかけに発展を遂げた歴史があります。東京2020オリンピックはその恩返しとして、人手が不足するなか警備にあたっていた警備会社も少なくありません。
オリンピックの安全と安心を守った日本の警備員の活動に対して、その手際の良さやホスピタリティが海外記者からも高い評価を得られています。
まとめ
東京2020オリンピックは警備員が大活躍し、安全と安心を守ることに成功しました。その成功の大きな一因として「警備JV」を早くから立ち上げて、警備業界の慢性的な人手不足に対処したことが挙げられます。
警備JVに参画した警備会社は、47都道府県から553社にのぼります。人手不足のなか警備業界が一丸となって「オールジャパン体制」で警備にあたりました。警備業法改正による「eラーニング」の導入や、最新テクノロジーによる防犯機器の活用なども成功の要因です。
日本の警備員に対する評価は高く、その手際の良さやホスピタリティが海外記者から称賛されました。
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