はじめに
警備員は、人々の安全と安心を守る重要な業務を担います。そのため警備員として採用されても、すぐに勤務はできません。
現場に出る前に「新任教育」と呼ばれる新人警備員の研修があります。この新任教育の概要や具体的な教育内容について解説します。
新任教育とは?
新任教育とは、警備員になる人が必ず受けなければならない新人研修です。正社員や契約社員だけでなく、アルバイトであっても必須です。警備業務を適正に実施させるために、法律で教育時間や内容が定められています。
ただし資格の有無や経歴によって、教育時間が短縮されたり、免除されたりします。警備の現場に出ない事務職や営業職の人は不要です。
新任教育には「基本教育」と「業務別教育」があります。基本教育では、すべての業務区分に共通する項目。業務別教育では、各業務区分における専門的な項目を学びます。
業務区分とは、警備業務における4つの区分です。施設警備の1号業務、交通誘導・雑踏警備の2号業務、運搬警備の3号業務、身辺警備の4号業務にわけられています。
■教育時間と免除
警備員未経験者の教育時間は、基本教育と業務別教育あわせて「20時間以上」です。おおむね3日間かかります。この教育は労働時間にカウントされるので、給料が発生します。お弁当(またはお弁当代)が出るところも多いです。
警備員経験者の教育時間は、経験のある業務区分ならば、基本教育と業務別教育あわせて「7時間以上」、未経験の業務区分なら「13時間以上」に短縮されます。経験者とは、最近3年間に通算1年以上の経験がある者です。
「警備業務検定(1級・2級)」または「警備員指導教育責任者」の資格を持っている人は、取得した業務区分ならば、基本教育と業務別教育がともに免除されます。
取得した業務区分でない場合でも、基本教育は免除です。業務別教育の時間は、取得した業務区分の未経験者であれば「10時間以上」、経験者であれば「3時間以上」に短縮されます。
「機械警備業務管理者」の資格を持っている人は、業務別教育が免除です。基本教育の時間は、未経験者なら「10時間以上」、経験者や元警察官なら「3時間以上」に短縮されます。元警察官とは、警察官の経験が通算1年以上ある者を指します。
元警察官の教育時間は、業務区分にかかわらず、基本教育と業務別教育あわせて「13時間以上」に短縮されます。
教育時間は、2019年の警備業法改正により、従来の3分の2に短縮されています。たとえば改正前の警備員未経験者は、基本教育15時間以上、業務別教育15時間以上の合計30時間以上の教育が必要でした。
■教育実施者と場所
新任教育はだれでも実施できるわけではありません。「警備員指導教育責任者」という国家資格取得者が実施します。警備会社は法律上、業務区分ごとに警備員指導教育責任者を選任しています。そのため社内で教育を実施することが多いです。
各都道府県の警備業協会でも新任教育を実施しています。社内での実施に都合がつかない場合は、研修センターなど協会指定の会場で受けることも可能です。東京都警備業協会では毎月1回実施しています。
■服装
社内で新任教育が実施される場合は、最初から制服のところもあれば、途中から制服になるところもあります。制服や装備品(警笛など)の正しい着用と使用方法を学びます。
警備業協会実施の新任教育の場合は、私服です。ただし都道府県によっては「警備員としてふさわしい服装」とされています。Tシャツやタンクトップ、ジーンズ、短パン、サンダルなどは避けましょう。
新任教育の内容について
■基本教育
基本教育で学ぶことは、以下の5項目です。すべての警備員に必要とされる知識と技能を習得します。テキストやDVDで勉強する座学と、実際に敬礼や護身方法などを訓練する実技があります。
1.警備業務実施の基本原則
警備業務の意義や重要性を学びます。警備員には特別な権限が与えられていないことや、他人の権利や自由を侵害したり、個人や団体の正当な活動に干渉したりしてはならないことがポイントです。
2.警備員の資質向上にかんすること
警備員としての使命や心構えを学ぶとともに、礼式や基本動作を習得します。敬礼や答礼、脱帽、着帽、気をつけ、休め、右向け右、左向け左、まわれ右などを訓練します。
3.警備業務の適正な実施に必要な法令
警備業法だけでなく、憲法や刑法、刑事訴訟法、遺失物法なども学びます。基本的人権、犯罪、正当防衛、緊急避難、正当行為、自救行為、責任能力、現行犯逮捕について理解します。
4.事故発生時の応急措置
警察(110番)や消防(119番)への連絡、負傷者の搬送や心肺蘇生法、消火器の使用方法、現場保存の方法などを学びます。緊急連絡では「六何の原則」や「巧遅より拙速」がポイントです。
5.護身用具の使用方法や護身方法
護身における考え方や注意点を学ぶとともに、警棒や警杖の取り扱いや護身術を訓練します。相手を打ち負かすのではなく、自分や他人の安全を守ることがもっとも重要です。
■業務別教育
業務別教育は、各業務区分に特化した専門的な教育です。現場での実地教育がカリキュラムに入ることもあります。施設警備と交通誘導・雑踏警備の2区分を取り上げて解説します。
施設警備の教育項目は、以下の5点です。施設警備は、商業施設やオフィスビル、病院、工場などに常駐して、立哨や巡回警備のほか、館内受付などのお客様対応もします。
1.人や車両の出入管理方法
出入管理の意義や、人・物・車両の出入管理方法を学びます。出入管理は、不法侵入や情報漏洩、内部犯行、危険物持ち込みなどを未然に防止するのが目的です。
2.巡回方法
巡回警備の意義や目的、種類、方法、着眼点などを学びます。巡回することによって、事件・事故・火災の防止、不審者・不審物の早期発見につながります。
3.警報装置などの機器使用方法
センサーなどの警報装置やカギなどの防犯器具について、種類や性能、取り扱い方法を学びます。トランシーバー(無線機)の実技もあります。
4.不審者や不審物を発見した場合の措置
警察への通報や現行犯逮捕、受傷事故の防止について学びます。警備員には特別な権限が与えられていないので、警察が来るまでにできることを把握しておく必要があります。
5.そのほかに必要な知識と技能
報告や連絡、警備日誌、カギの取り扱い、秘密保持など、警備会社によって学ぶことは異なります。
交通誘導・雑踏警備の教育項目は、以下の6点です。交通誘導・雑踏警備は、工事現場やイベント会場などに派遣され、車両や歩行者の誘導、またはお客様対応をします。
1.道路交通関係法令
道路交通法について学びます。駐車や停車、車両、歩行者、違反、車道、歩道、標識、標示などを理解します。
2.車両や歩行者の誘導方法
交通誘導の方法や注意点を学びます。車両の停止や誘導、片側交互通行などを誘導棒(誘導灯)や手旗を使って練習します。
3.人や車両が雑踏する場所での整理方法
花火大会やお祭りなど雑踏での警備や広報の方法について学びます。
4.各種資機材の使用方法
資機材の機能や使用方法について学びます。資機材とは、工事現場で使われる標示板や矢印板、バリケード、セーフティコーン、コーンバーなどです。
5.事故発生に対する措置
雑踏での事故や交通事故が発生した場合の措置を学びます。負傷者の救護とともに、二次災害を防止するのがポイントです。
6.そのほかに必要な知識と技能
警備を実施する位置の選定や受傷事故防止など、警備会社によって教育内容が補足されます。
まとめ
警備員未経験者は、採用されてもすぐに勤務はできません。現場に出る前に、20時間以上の新任教育を受ける必要があります。資格の有無や経歴によって、教育時間が短縮されたり免除されたりします。
新任教育には「基本教育」と「業務別教育」があります。基本教育では、すべての警備員に必要とされる基礎項目。業務別教育では、各業務区分に特化した専門的な項目を学びます。
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