警備における有形の影響力と無形の影響力とは?

目次

はじめに

警備業務は人の生命や身体、財産などを守るために、有形または無形の影響力を行使するものと表現されます。その警備における影響力が強すぎると、他人の権利や自由を侵害してしまうおそれがあります。

憲法の「基本的人権の尊重」に反することがないよう、警備員は法律も理解して十分留意しなければなりません。警備における有形または無形の影響力とは何でしょうか。法律の話が多くなりますが、具体例もあわせて解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。

有形の影響力とは

有形の影響力とは物理的な力です。警備において有形の影響力を行使するとは、物理的な力をもって警備にあたることを意味します。有形の影響力は、警備員が犯罪や事故などの被害を防止するためにとった行為が、逆に加害者となってしまう危険性をはらんでいます。

警備員は警察官とは違い、特別な権限が一切与えられていません。不審者に対する指示や命令、職務質問、取り調べなどは禁止されています。見た目は制服を着ていて特別なイメージがありますが、一般人とまったく同じです。

そのため一般人と同じ権利のもと、警備業務を遂行しなければなりません。一般人に認められている権利として、警備業務に関係が深いのは次の3つです。

1.正当行為(刑法第35条)
2.正当防衛(刑法第36条)
3.現行犯逮捕(刑事訴訟法第213条)

次の項で、それぞれ具体例を挙げて解説します。

有形の影響力の具体例

■正当行為(刑法第35条)

刑法第35条では「法令または正当な業務による行為は、罰しない」とされています。正当行為は「法令行為」と「正当業務行為」の2つを指します。

法令行為とは、法律的に権利が認められた行為または義務を命じられた行為です。たとえば消防隊員が消防・救出活動のために建物や車を破壊する行為は器物破損ではありませんし、刑務官が死刑を執行するのは殺人になりません。

警備員に特別な権限はありませんが、一般人として不法侵入者や万引き犯を現行犯逮捕することは法律で認められた行為となります。

正当業務行為とは、法律上の規定はなくとも社会通念的に正当と認められる行為です。たとえば格闘技の試合で相手を殴る行為は暴行ではありませんし、外科医が手術で腹部を切る行為は傷害になりません。

警備員は護身用に警棒を装備しますが、軽犯罪法違反にはなりません。一般人が正当な理由なしに警棒を携帯していると違反になります。

■正当防衛(刑法第36条)

刑法第36条では「急迫不正の侵害に対して、自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」とされています。

たとえば警備員が銀行での立哨警備中に銀行強盗に襲われた場合、警棒を用いて犯人を制圧または撃退しても暴行や傷害にはなりません。たとえ警備員自身が襲われていなくても、他人の権利を防衛するためと認められます。

ただし行き過ぎた行為は正当防衛とは認められず、過剰防衛となるので注意が必要です。正当防衛が認められるには、条文にある要件が満たされていなくてはいけません。

要件となるキーワードは「急迫不正の侵害」と「やむを得ずにした行為」の2つです。

急迫不正の侵害のポイントは、過去でもなく未来でもなく現在進行形で差し迫った事態であることです。すでに制圧した犯人をさらに懲らしめようと、不必要に警棒で殴ったら暴行罪や傷害罪に問われます。銀行の前でウロウロしている不審者を、銀行強盗かもしれないと制圧しても同様です。

やむを得ずにした行為のポイントは、その必要性と相当性です。逃走しようとしている犯人に対して必要以上に打撃を与えることは過剰防衛になります。銀行強盗であれば警棒を用いた制圧に相当性はありますが、年老いた万引き犯に対して警棒で制圧するのは行き過ぎています。

■現行犯逮捕(刑事訴訟法第213条)

刑事訴訟法第213条では「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」とされています。

現行犯逮捕は警察官でなくても可能です。警備員を含めた一般人による逮捕のことを、私人逮捕(または常人逮捕)と呼びます。

私人逮捕の対象は「現行犯人」と「準現行犯人」です。30万円以下の罰金・拘留・科料にあたる罪については、犯人の住居・氏名が明らかでない場合、または犯人が逃亡するおそれがある場合にかぎるとされています。

現行犯人とは、現に犯行を行っている、または行い終わった者を指します。万引き犯は店内でも逮捕できますが「精算するつもりだった」と言い逃れられる可能性があるので、店外に出たところを現行犯人として逮捕できます。

準現行犯人とは、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる者で、以下の4つの定義があります。

1.犯人として追呼されているとき

たとえばショッピングモールの巡回警備中に「ドロボー!」と呼ばれながら追いかけられている犯人がいた場合、警備員は犯行現場を見ていなくても現行犯逮捕できます。

2.贓物または明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他のものを所持しているとき

贓物(ぞうぶつ)とは盗品のことです。犯人が盗品や血の付着したナイフなどを持っていたら逮捕できます。

3.身体または被服に犯罪の顕著な証跡があるとき

身体にケガを負っていたり、服に血痕や防犯カラーボールの塗料が付着していたりする場合は逮捕できます。

4.誰何されて逃走しようとするとき

誰何(すいか)とは、相手を呼びとめて何者か問いただすことです。たとえばオフィスビルの巡回警備中に不審者を発見し声かけをしたところ、不審者が逃げ出したら逮捕できます。

ただしいずれの場合も、行き過ぎた行為にならないよう注意しなければなりません。また現行犯逮捕したあとは、直ちに警察官に引き渡す必要があります。

無形の影響力とは

無形の影響力とは、抑止力です。警備において無形の影響力を行使するとは、物理的な力を用いずに犯罪を抑止することを意味します。有形の影響力とは違い、警備員が加害者になる危険性はありません。

警備業務において有形の影響力は最終手段であり、無形の影響力を最大限に生かして犯罪を未然に防ぐことが肝要です。

無形の影響力の具体例

■制服警備員による警備

警備員といえば制服姿で立哨警備や巡回警備をしています。これは警備員の存在を目立たせることで、監視の目が光っていることをアピールするのが狙いです。警備員がいるだけで「ここで悪いことをするのはやめておこう」と犯罪の抑止力になります。

無形の影響力を最大限に生かすため、警備会社は身だしなみや規律に厳しいところが多いです。だらしない格好で適当に警備をしていては、犯人に付け入る隙を与えかねません。

■防犯ステッカーや監視カメラ

防犯ステッカーや監視カメラも警備における無形の影響力です。
警備会社のステッカーや私服警備員巡回中のステッカーが貼ってあれば「悪いことをしたら警備員が駆け付けてくる」と犯行を思いとどまらせることにつながります。監視カメラがあれば、それがダミーであっても犯罪はやりづらくなります。

まとめ

人の生命や身体、財産などを守るために、警備には有形または無形の影響力があります。

有形の影響力は物理的な力で、行き過ぎると犯罪や事故を防ぐはずの警備員が加害者にもなり得ます。警備員は正当行為・正当防衛・現行犯逮捕など法律にもとづいた行為で警備にあたりますが、過剰にならないよう注意が必要です。

無形の影響力は抑止力で、警備員が加害者になることはありません。制服警備員による警備や防犯ステッカー、監視カメラなどが挙げられます。警備業務はこの力を最大限に生かし、犯罪を未然に防ぐことが肝要です。

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